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神代が尋ねるまで歯牙にもかけなかった、というよりも有るのかどうかすら気にもかけなかったが、俺は貧乏神の名前を知らない。
「僕はヨウです」
両親がいるくらいだ、貧乏神も一人ではないのだろう。名前が無ければ不都合に違いない。
「そうかヨウ君か。これからよろしく」
「よろしくおねがいします」
ヨウは堅苦しくお辞儀をするとつっかえていたものが取れたように無邪気な笑みを浮かべた。神代に対する警戒が解けたのだろう。
ヨウは機嫌良く神代に手を引かれて外に出て行った。
俺の中で危機感が募ってくる。
俺はまだ神代をよく理解していない。頼る相手を知らないのは誰も頼らないと同様に不安にさせられる。さっきの子供に甘い様子を見ると余計だ。
扉の向こうで仲良く俺を待つ二人の背後に絶望が広がっているように感じた。
「誠、早く行こう」
神代の声で胸に広がりつつあった黒い靄が晴れた気がした。
今は神代を信じるしかない。そう割り切り前へ歩き出す。
神代のことは今から知ればいい。今をなんとかすることが重要なのだから。
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