神に愛された男

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 神社で最初に出会ったのは巫女装束を纏う女性だった。 「あの、すいません」 「はい、なんでしょうか?」  女性は笑顔で応対してくれる。 「御祓いをお願いしたいのですが」 「あっ、そういうことなら神主さんに取り次ぎますね。私ただのバイトなんで」  そう言ってバイトでコスプレをしている女性は奥へ消えていった。  この神社に頼ることへの不安が募る。というよりもバイトであることは言う必要があったのか。  しばらくして女性が連れてきたのは、先程あった坊さんと同じく坊主頭の男性だった。こっちは天然だったが。 「この方です」 「おーそうかい。ありがとうね、幸恵ちゃん」  なんとも軽薄そうな神主だった。  日本でも有数の神社だと聞いていたが間違いだったのかもしれない。  女性を見送った神主はこちらを見て息を呑む。  さっきまでの軽薄そうな雰囲気を消して俺の方へ向かってきた。 「君は御祓いに来たんだよね」 「はい。とても困っていまして……」  神主は緊張したように唇を何度もなめる。 「申し訳ないが私には君の力になれそうにはない」 「な、なんでですか?」  まだ何も話していないのにいきなり諦められた。 「薄々は感じていたんだがね、まさかこれほどとは……」 「見えるんですか?」  つい詰め寄ってしまう。  神主は汗を額に浮かばせながら、捻り出す様に声を出した。 「いや、正確には見えないのだが大きな力があることだけはわかるのだ」 「大きな力、ですか」  まさかこのガキは思った以上に力のある存在なのだろうか。 「どちらにせよ私には無理だ。この清い力は神のもの。信仰する対象を祓うなんてことはできない」  確かにそうだ。神道に帰依する者が、たとえ貧乏神といえども、神を祓うなんてことはありえない。 「これを何とか出来そうな人を知りませんか?」  最初は軽薄な雰囲気に心配したが、この人は間違いなく本物。もしかしたら解決出来そうな人を知っているかもしれない。 「すまないが私から言うのは控えさせてもらいたい。君についているのは神の意志、私がそれを無碍にすることはできない」  俺は何とか聞き出そうと食い下がったが、神主も頑なに固辞し、俺が結局は折れた。 「黙っててくれてありがとー」  帰り際にガキが神主にを言うと、神主は膝を附き、恐縮した様子で深々と頭を下げた。  これはまずいかもしれない。
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