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「お…じゃま、します」
恐る恐るドアを開け中に入る。
今日から僕の部屋になるっていうのに、よそよそしいのは自覚してる。
玄関に喜多川くんがいるはずないのに、ビクビクと怯えながら歩を進める。
リビングへ繋がっているドアを、音が出ないようにそーっと開ける。
少し空いた隙間から、中を見渡した。
………ここにも、いない?
「何してんの?」
「っ!!!」
背後から聞こえた声に、ビクっと背筋を正す。
え?なんで?
なんで後ろからあらわれるの?
テンパりながらも、これからよろしくという挨拶だけはしなきゃと、振り返り頭を下げる。
がばっと頭を下げた視線の先には、廊下と足…
靴下はいてない。
それだけじゃなくて服も視界にない…。
頭の中に疑問符を浮かべながら
ゆっくり視線を上げていく。
「ひゃっ!?」
濡れ髪に、バスタオルを巻き付けただけの格好に、壁ぎわまで飛び退いた。
「───っ!!?」
なんで!?
いや、お風呂上がりだったんだろうけど、なんでそんな格好であらわれるの?
恥ずかしくないの!?
口をぱくぱくさせている僕の前で、喜多川くんは平然と濡れた髪をタオルで拭いている。
…あぅ、そうだよね、同性なんだから気にするのも変だよね。
胸に手を当て深呼吸して、自分を落ち着かせる。
「蘇芳叶斗…です。今日からよろしくお願いします」
もう一度深々と頭を下げた。
そうすれば、顔も見えないし、見せなくてすむから。
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