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「1人では危ない」
と言い続ける会長をなんとか説得して部屋を出た。
「よしっ」
前向きになれたけど、気合いを入れなきゃ足が動かないくらい竦んでる。
それでも、帰ってちゃんと話そう。
また泣いちゃうかもしれないけれど……一歩進まなきゃ。
エレベーターで一階まで下りて、エントランスを抜ける。
その時──
「叶斗……」
背後から抱き締められた。
突然の事に体が硬直する。
振り向けなかった。
「やっと会えたね」
その声は、先輩特有の……どこか罠に掛かった獲物を嘲笑うようだった。
な……んで?
だって……
「が、合宿…は?」
身を強ばらせたまま、なんとか尋ねる。
「よく知ってるね。調べたのかい?そんなに俺のことが知りたいの?」
「っ!!」
お腹の前で交差されていた腕に力が入ったのに気が付いて、手を伸ばしてドアを掴む。
引きずられる。
足を踏張って、ドアに縋るのに、僕と先輩じゃ体格が違いすぎる。
「は、なして…くだ、さいっ」
ちゃんと会長の言うこと聞けば良かった。
遠慮せずに甘えるべきだった。
「神木も家に帰っていないから…邪魔者はいないよ」
「やっ!」
やっとのことで引っ掛かっていた指がついにはずれる。
先輩しかいない部屋に連れていかれたら、僕だけじゃ抵抗できない。
「だ、れかっ」
ほとんどの寮生は冬休みで家に帰っている。
残っている生徒だって、こんな時間だ…寒いし部屋にいる。
僕の声なんて、誰にも届かない。
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