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「それにしても…」
くいっと顎に手をかけられ上を向かされる。
凝視されてる…か、顔が近い。
「…どっかで見たことある気がする」
!?
あわてて距離をとって前髪で顔を隠す。
僕の素顔に見覚えがあるなんて…カナとして知ってる可能性が高い。
だって、凌はジャンル問わずにたくさんの雑誌を見てるから、どこかで僕を見ていてもおかしくない。
「…隠した…ってことは心当たりがあるって事だな?」
「ふぇ!?」
もしかしなくても逃げたのは墓穴掘った?
「絶対会ってるよな?どこで会った?覚えてんだろ?」
「な、ないよ…僕は顔…見せないし…違」
「違わない」
絶対言わない。
女の格好してるなんてバレたら、気持ち悪がられる。
絶対引かれる。
そんなのヤダもん。
「じゃ顔見せろ、思い出す」
「ひっ…!い、イヤ、だって」
壁ぎわに追いやられ、逃げないように腕を捕まれる。
下向いていた顔が、両手で包まれて上を向かされた。
後頭部が壁に当てられ、向きを固定され、右手で前髪をすくい上げられた。
露になっている僕の顔が、凌の記憶と合致する前に振りほどいて逃げなきゃいけないのに、力が強くてびくともしない。
「離して…」
「目を潤ませるなよ」
だって嫌なんだもん。
泣きたいくらいバレたくないんだもん。
「…も、いいでしょ…?」
「………やべ、なんか変な気分になってきた」
へ?
構える間もなく、ぬるっと左耳の上の方に生暖かい物が触れた。
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