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見なきゃよかった、知らなきゃよかった。
凌に彼女がいるのは知っていたが、こうやって具体的に知ってしまうと現実味がぐっと増す。
彼女を見たことないときは、心の中で『いつかは別れるんじゃないか?』なんて思えてた。
だけど、あんなにお互いを大事そうに見つめて………別れそうな2人には見えない。
叶わないんだ…
僕はどんなに好きになっても、報われることはないんだ。
のそのそと着替えて、鏡を見る。
着替えたのもスカートだったけど、映っているのは変な奴だ。
男のくせに恥ずかしげもなく女の格好してる意気地なし。
…もう、やめなきゃ。
僕は男なんだから、女装に逃避なんてしてちゃいけない。
逃避しても、逃げたい現実からは逃れられないんだから。
女の子になっていれば、強くなくてもいいって思ってた。
けど、どう足掻いても僕はモドキでしかなくて、女の子として見てもらえない。
凌に…あんなふうに優しく熱っぽく見つめては貰えない。
「もうやだなぁ」
うじうじ、うじうじ、自分に呆れる。
女々しい…
ある意味、女より女らしいぐじぐじさだ。
帰ったら、服もウィッグも全部処分しよう。
ふーちゃんにも連絡して、雑誌の編集さんにも話して、辞める方向で期限を決めてもらおう。
女みたいでも、凌に選んでもらえないなら、もう辞めよう。
男らしくなるんだ。
涙で潤んだ目で、鏡の中の自分と睨み合った。
───強くなりたい。
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