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「オマエ彼女とかいないのか?」
イチマツの自宅で湯豆腐を食べる事になり、二人で鍋を囲んでる時、不意に黒雅が聞いてきた。
「ゲホッゲホ…なんだよ急に!」
さっきまでの、餅にはきな粉をかける派だの砂糖醤油は必須だの、という会話から大分掛け離れた質問に、イチマツはむせてしまった。
「いやいや、二人で鍋やるのも久々だからよ、ボーイズトーク?」
「ボーイズ…ってあんたそんな年じゃないだろ。メンだろメン」
イチマツは水を飲んでからため息を吐いた。
「で。結局のところどうなんだよ?」
心なしか目が笑っている黒雅を見て、なんだかイラッとするイチマツ。
「いねえよ。生まれてこのかた。」イチマツが湯豆腐を頬張りながら言うと、つまんねなオマエ、と落胆された。
「るせー。忙しいんだ俺は。」
ほっとけと言わんばかりに、麦茶を勢いよく注ぐ。
「まだまだ青いな。俺がオマエぐらいのときにはすでに彼女がいたのにな。」
「どうせ逃げられたんだろ。ヘタレすぎて」
焼酎も入ってほろ酔いになってきた黒雅を見ずに、豆腐を突きながら返事をする。
「酷い言いようだな。一人目の彼女と結婚したんだ。あいつ一筋で一途なんだぞ俺は。よくモテたんだけどな」
モテたって事を凄く強調され、疑いの目を向けるイチマツ。
「なんだその目は。ま、今の所俺が勝ってるっつーことだ。頑張れよ、青二才。」
「む。まだ13の妹だっているんだぞ。一人にさせられるかよ。」
思い浮かぶのは、まだぶかぶかなセーラーを着た妹。イチマツが家を空けている時、一人でせっせと家事をする姿が目に浮かんだ。
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