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「失礼、一ノ瀬というものだが、虚木透理探偵事務所はここで宜しいだろうか」
事務所の戸を開けて入ってきたのは、ブラウンのブランドスーツを着こなす、白いものが混じった角刈りの、ガッチリとした体型の男性だった。
「ええ、合っていますよ。私が所長の虚木透理です。以後お見知り置きを」
虚木さんは一ノ瀬さんと簡単に握手を交わし、ソファーに掛けるよう勧める。ソファーの前の応接用テーブルには、もう弥生さんの用意した紅茶のポットとカップ、茶菓子が置かれている。
そして、私は何をしているのかと言うと、あたふたしている時に、虚木さんに「そこに掛けて置物みたいになっていて下さい。必要ならば呼びますので」と言われたので、椅子に座って置物のようにじっとしている。
黙って一ノ瀬さんと虚木さんのやり取りを眺めていると、一ノ瀬さんの視線がこちらを向いた。
その視線に、私は貼り付けたような笑顔で応える。一ノ瀬さんの顔に驚愕の表情が浮かんだ。
「彼女が気になりますか?」
虚木さんがニコリともせずに問う。一ノ瀬さんは、慌てたように虚木さんに向き直って弁明するようにまくし立てる。
「いや、失礼。家事用アンドロイドが居るとは聞いていたが、若い女性が居るとは聞いていなかったもので」
「最近雇い入れた助手です。知らないのも無理はないでしょう。お気になさらず、紅茶と茶菓子をどうぞ」
そう言って紅茶と茶菓子を勧める。一ノ瀬さんは軽く礼を言って紅茶に口を付けた。
「それで、ご依頼内容はどのようなものでしょうか」
虚木さんの問いに、一ノ瀬さんはカップをソーサーに置いて、虚木さんに問う。
「その事だが、貴方はここ界隈で騒がれている連続殺人をご存知かね」
「ああ、あの殺害される前日に予告状が届いているあの事件ですね。なんでも、予告状の中に無意味としか思えない文字列があるとか」
「その話を踏まえて、これを見てもらいたい」
一ノ瀬さんが名刺入れから出した物は、一枚のグリーティングカード。
「これは…」
「その通り。これが件(くだん)の予告状だ」
虚木さんに呼ばれ、テーブルへ行く。
テーブル上のカードには、一ノ瀬さんの名前と『明日、貴方の命をいただきに参上致します。願わくば、貴方が大きく堂々たることを。古き怨みを込めて、dui tiki ouk』と書かれていた。
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