順序なき順番

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「如何かな?」 一ノ瀬さんは、少々大仰な動作と芝居がかった口調で虚木さんに問い掛けた。 「ふむ、一見しただけでは、送り主たる犯人が一ノ瀬さんを殺そうとしていることしか分かりませんね」 虚木さんがそう言うと、一ノ瀬さんは深い溜め息を吐いた。今まで同じことを散々言われ、相手に呆れ、解決を諦めているように。 「今までの被害者全員に送られているこの文面は一字一句変わらないようなのだ。この署名も意味のない羅列でしかない。全く、意味が分からんよ」 「そうですか……」 虚木さんは暫しカードを見つめたまま黙考すると、諦めたように両手を広げた。 「残念ながら、お力になれないと思います。私に分かるのは、一ノ瀬さんが明日殺されるかも知れないこと、犯人が対象の死を強く望んでいること、そして、この予告状の送り主が、『クドウキイチ』という人物だということです」 私には虚木さんが何を言っているのか理解出来なかった。 文面からは、一ノ瀬さんを殺害しようとすることしか分からず、途中の文も意味もないことにしか見えず、署名も意味のない英字の羅列にしか見えなかったからだ。 「これくらいなら警察のお歴々も分かっているでしょうし、私の助力は不要でしょう」 そう言って、話は終わったとでも言うように席を立とうとする虚木さんを、一ノ瀬さんが必死の形相で押し留める。 「待ってくれ!何故その答えが出た!?何故『クドウキイチ』の名前が出た!?答えろ!」 一ノ瀬さんの問い掛けに虚木さんは、やれやれと言わんかのように首を振り、ソファーに再び腰掛ける。そして、紅茶を一口分飲み下すと、虚木さんは答を紡いだ。 「これは、簡単なアナグラムです。『dui tiki ouk』を並べ替えて『kudou kiiti』これを、ワープロソフトなどで打ち込めば『クドウ キイチ』となります。それと、蛇足かも知れませんが、『願わくば、貴方が大きく堂々たることを』、『大きく堂々』を抜き出して、読み方を変えれば『雄大』となります。これの読み方を英語風に変えれば、犯人が何を言いたいかお分かりですよね? 建設業界最大手、一ノ瀬建設社長の一ノ瀬雄三さん?」 虚木さんはカップに口を付け、一ノ瀬さんが来てから初めてニヤリと、意地の悪い笑みを浮かべた。
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