順序なき順番

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翌日の午前五時前。私は我が職場である虚木透理探偵事務所の前にいた。 ドアに手をかけ、横にスライドすると、事務所の奥にある机では、虚木さんが悠然と朝食を取っていた。しかも、レタスの切れ端やドレッシングがあることから察するに、早朝からサラダも食べていたようだ。その朝食の皿は全て空っぽで、虚木さんは食後のティータイムに興じていた。 「おはようございます」 私から挨拶する。虚木さんはカップから口を離して爽やかな笑みを浮かべた。 「おはようございます、藤堂さん」 その表情から感情は読み取れない。常に笑顔、故に無表情。常に笑っていることもある種のポーカーフェイスなのだ。 「それでは参りましょうか。弥生、真を連れてきてくれ」 「畏まりました」 いつものように突然現れる弥生さんに虚木さんは指示を出す。 「虚木さん、移動はどうするんですか?」 「車を使いますよ。昨日の内にレンタカーを手配しておきました」 通りで事務所の前に見知らぬ車があったわけだ。それもナンバーが「わ」から始まるやつ。 しかし、その言葉を聞いて一つ疑問が頭を過ぎる。 「運転は誰がするんですか」 私は免許を持っていない。いや、“持っていない”というのは不適切だ。正確には“一応持っている”だ。 そもそも肉体派な私からすれば自転車と電車、丈夫なスニーカーさえあれば結構遠出できてしまう訳で、今まで自動車というものにお世話になる機会がなかったというか必要がなかったというか一応身分証明書として自動車免許が必要になりそうだったから取っただけというか…… はっきり言おう。私は教習所で学んだだけの超ペーパードライバーなのだ。もうATの運転すら怪しいレベルで忘れている。 それに、この車は見た限りMTだ。私の免許では運転出来ない。 「私も運転出来ませんがその点は問題ありません」 「僭越ながら、わたくしが運転させて頂きます」 名乗りを上げたのは機械の如く無表情に佇む弥生さんだった。 いや、一応アンドロイドだから機械なんだけど…
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