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「弥生さんに運転って出来るんですか?」
そこが疑問なのだ。
送迎用アンドロイドならば運転出来るのは理解出来る。それが専門分野だからだ。
だが、弥生さんは家事用アンドロイド。炊事洗濯掃除などの家事は出来ても、車の運転という専門外の分野は彼女にプログラミングされていないはずなのだ。
「問題ありません。そうだろ、弥生」
「はい、透理様。わたくしには家事などの他に、運転や交渉術、経営学などのデータも一通りインプットされております」
「なんでそんな家事用アンドロイドの範囲から逸脱したデータが備わっているんですか!」
弥生さんを作った人は常軌を逸しているとしか思えない。家事用アンドロイドには無駄な機能が満載だ。そもそも、ハイエンドモデルを作ったというだけで一般的にはかなり常軌を逸している。
「それがメイドです故、ご容赦下さいませ」
弥生さんは、深々と腰を折り、頭を下げる。そこには一切の隙もなく、一分もブレない、正に完璧なお辞儀だった。
しかし、私には全く持って理解出来ない。メイドってなんだ。弥生さんは家事用アンドロイドではないのか。
「家事用アンドロイドとはどこが違うんですか、虚木さん」
私は虚木さんに助けを求めることにした。まだ弥生さんに訊くよりはましな答えが返って来るだろう。
「そうですね……メイドアンドロイドと家事用アンドロイドとの違いは、家事以外にも対応出来るように設計されている点でしょうか」
虚木さんは、顎に手を当て少し考えると、あっけらかんと答えた。
それでも、私にはやっぱり意味が分からなかった。
虚木さんの説明でも理解出来ないとは……これは、私の理解力が低いだけなのだろうか。
「藤堂様。ご理解頂けないとは重々承知でございますが、申し上げさせて頂きます。
家事手伝いとメイドの違い。それは、家事手伝いが家事をするだけの存在であるのに対し、メイドとは、家事を行うだけでなく、主の私生活のみならず、仕事や会席の場でも主をマルチにサポート出来る存在であるということなのです。故に、メイドは家事手伝いなどではなく、メイドという一つの役職としてあるのです」
「本当にさっぱり理解出来ませんでしたよ!」
嗚呼、わかった。
これは、私の理解力が低い訳ではない。
多分、私の専門分野が体育会系なのに対して、弥生さんの専門分野は真逆なのだ。それは、水と油のように、決して相容れぬ存在なのだ。
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