順序なき順番

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「もういいです。早く行きましょう」 私は虚木さんに早く行こうと促す。 「もういいんですか?」 「大丈夫です。私には理解出来ないということを理解したので」 私の完全敗北だった。しかし、不思議と悔しさや敗北感はない。それも当然だ。野球選手が卓球で負けても口惜しくはない。そういうことだ。 私達はレンタカーに乗り込む。 五人乗りの乗用車の運転席には弥生さんが、助手席には虚木さんが座った。私と真は後部座席だ。 「それでは皆様、シートベルトを着用下さい。目的地は一ノ瀬邸。所要時間は約一時間を予定しております」 弥生さんがカーナビのような事を言うと、ミラーや前後の確認、ちゃんと私達がシートベルトを着けているかを確認し、アクセルを踏み込む。 そこから本当に一時間車に揺られ、着いたのは閑静な住宅街にある一軒の豪邸だった。 「ここが一ノ瀬さんのお宅ですか」 車から降りた私は、豪邸を取り囲む高い塀を、端から端まで見渡す。大体直線距離で百メートル位あるかな。私の足だと十数秒で駆け抜けられる距離だ。 入口の門は、重厚な鉄製で縦に入ったスリットの向こうに白い邸宅が見える。門の下の方に目を向けると、小さくも丈夫そうな鉄製のローラーが付いていた。それを見て、つい校門をイメージした私は間違っていないと思う。 門の上には監視カメラが二台、道路に向かってそのレンズを向けていた。 「建設業界の重鎮ですからね。これくらいの豪邸で当然でしょう」 同じように車から降りた虚木さんは、別段なんでもない事のように言う。以前にもこういう所に仕事に来たことがあるのだろうか。 「本当に大きな家だね。弥生ちゃん、メイドアンドロイド何人居れば管理仕切れるかな?」 「間取りを見なければ分かりかねますが、大体五人も居れば何とかなるかと」 弥生さんと真と二人は、いまいち理解出来ない会話をしていた。 よく分からない会話の中で唯一分かったのは、メイドアンドロイドってすごい高性能なんだなぁ、ということだけだった。 この豪邸を五人居れば管理出来るって人間の家政婦さんどころか、一般的な家事用アンドロイドより高性能な気がする。 虚木さんは、つかつかと門に近寄り、周囲を見回すと、何か見つけたように門の右側に歩いて行った。 何があるのだろうと気になって、私も虚木さんの隣に行く。 そこには表札と、音符マーク付きのボタンがあった。インターフォンだ。
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