順序なき順番

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「失礼ですが、あなたは?」 虚木さんが執事に問う。 「これは御客様に重ね重ね失礼を。わたくしは一ノ瀬様のお宅で従僕長を務めてさせていただいております、『西』(ニシ)と申します」 西さんは腰を折り、深々と頭を下げる。 弥生さんと同じよく訓練された所作。この動作だけで、二人は同じ仕事をしているのだと理解した。 「それでは御客様、こちらの車にお乗り下さい。旦那様がお待ちです」 西さんが後部座席のドアを開け、車内に私達を促す。 「我々はここまで来るのに車を使いまして、この車は如何すればよろしいのですかね?」 虚木さんがレンタカーをチラリと横目で見やりながら西さんに問いかける。西さんは少し目を伏せ黙考すると、無表情のまま口を開いた。 「左様でございますか。……畏まりました、御客様のお車は運転手の『中村』(ナカムラ)に運転させましょう」 そう言うと西さんは、乗用車に近寄って、運転席の窓を軽く叩き中に居るであろう中村さんと一言二言言葉を交わす。 運転席からスーツに身を包んだ恰幅のいい中年男性が出てきた。この人が中村さんだろう。 「運転手の中村と申します。御客様のお車は責任を持って預からせていただきます」 中村さんは胸に手を当ててお辞儀をする。西さん程ではないが、社会人なら当然と言える程度の礼だった。 それに対して虚木さんはにこやかに微笑んだ。私は知っている。この人が微笑んだ時はなにか悪いことを考えているということを。 「はい、お願いします。見ての通りレンタカーなので、お店まで返しに行って下さい」 私は、人の顔から血の気が引く瞬間というのを見てしまった。 それもそうだ。この屋敷から一番近いレンタカー会社でも数㎞離れている。レンタカーを返してしまえば帰りの足はない。ふくよかな体型をしている中村さんにはこの数㎞は堪えるだろう。
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