その探偵、如何様也

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「あ、いえ、気にしないで下さい」 そう断ってお茶の入っていたカップに手を伸ばすと、中身は空っぽになっていた。 「あ、お茶がない」 「お茶をお持ち致しました、お客様」 「うわぁ!?」 いつの間にか、私の傍らにはガラスのティーポッドを携えたメイドさんが立っていた。 年の頃は二十代前半。切れ長の瞳にモデルのようなスラッとした高身長の美人さんだ。邪魔にならないようにするためか、綺麗な長い栗色の髪をポニーテールにしている。 黒いロングスカートのブラウスに白いエプロン、頭にはヘッドドレスを乗せ、無機質な表情で佇む様は、所謂『メイド』という雰囲気ではなく、『侍女』と呼ぶのが相応しい、凛々しい雰囲気を漂わせていた。 「アッサムティーでございます」 紅茶の銘柄を言いながら空っぽのカップに紅の液体がとくとくと注がれ満たされていく。 「あ…ありがとうございます…ええっと…」 「わたくしとしたことが、すみません、申し遅れました」 彼女は深々と頭を下げ、無機質な表情と声の調子で述べた。 「わたくし透理様のお宅で家事全般を受け持っております、侍女型アンドロイド『弥生』でございます。以後お見知り置き下さいませ」 この人が弥生さん…アンドロイドと言われても、人間にしか見えない。 家事用アンドロイドが普及し始めたのは極々最近のことだ。 箱崎電機が開発したこのアンドロイドは、高い家電製品程度の値段で、炊事洗濯含む家事全般を請け負ってくれると言う触れ込みで一躍話題となり、その便利さからあっという間に世界中に普及した。 基本的に、アンドロイドは一目見ただけで『あぁ、アンドロイドだな』と分かる程度の違和感を持っている。 それは、手足の細かい動きのぎこちなさであったり、発声の違和感であったり、行動の中に混じる僅かなサーボ音だったりするのだが、この侍女型アンドロイド、弥生さんには全く違和感がない。 確か、物凄い物好きが徹底的に改造を施して、違和感をほぼ無くしたハイエンドモデルを作ったと聞いたことはあるが、弥生さんもその類なのだろうか。
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