その探偵、如何様也

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「あの…」 「弥生、奥で待機していてくれ。あと、茶菓子の追加を頼む可能性があるから支度を」 「承りました、透理様」 私が質問するより早く、虚木さんが弥生さんに命令を出して奥に戻した。 背筋をピンと伸ばしたまま、一切のブレなく歩くその姿は、アンドロイド的な、機械的な正確さに基づいての動きではなく、人間が訓練して、練習して身につけた美しい所作にしか見えなかった。 「あの…弥生さんは…」 虚木さんは、大きな溜め息を吐くと、やれやれと首を横に振って、バレてしまった罪を半ばヤケクソ気味に告白するかのように、あっけらかんとした調子で答えた。 「お察しの通り、弥生は徹底的に改造を施した、家事用アンドロイドのハイエンドモデルです。友人にそういうのが得意な者がいましてね、頼んで作ってもらったのです」 やはりハイエンドモデルだったか……。 私の友人にも、ハイエンドとまでは行かないものの、フルカスタムモデルと呼べる程の個体を作った人間はいた。 三年も掛けて作ったらしいが、そのアンドロイドからは、ほんの僅かにサーボ音がし、発声もアクセントが微妙に違和感を感じさせた。肌の質感も、少しマネキンじみた質感をしていたのも違和感の一端だろう。正直、私は気味が悪かった。(その後、その友人から聞いた話によれば、それは、『不気味の谷』と呼ばれる現象らしい。詳しくは彼も知らなかったようで、『本物一歩手前になると人は嫌悪感を抱く現象』としか語らなかった。彼はロボット工学科ではなく、経済学部だったのだが、今思えば、その改造技術はどこで身に付けたのだろう。甚だ疑問である。) しかし、弥生さんからはそのような違和感は感じない。自然、あまりに自然。普通に『人間』で通ってしまいそうなほどに自然で、人間に忠実な動きだ。 「すごいんですね…そのご友人は」 「あいつは趣味で作ってますからね、これぐらいしてもらわないと、あいつの腕が勿体無い」 そう言う虚木さんは、その友人のことを思い出したのか、カップに口を付け、紅茶を啜る口元が、僅かに上向いていたように見えた。
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