その探偵、如何様也

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「仲がよろしいんですね」 「腐れ縁です。幼稚園から同じでしたから」 それはもう腐れ縁とか通り越しているのではないか?と私は思ったが、口に出すことはしなかった。 「それはまた……長い付き合いですね」 上手く当たり障りのない言葉を選んで言葉を返す。決定と言われたが、今は飽くまで面接中なのだ。敬語は一度崩してしまったが、何とか挽回せねば。 「実は生まれた病院も一緒で、誕生日も1日違いなのです、あいつが一時間遅く生まれて日付跨いでいたから私と1日違いになってしまっただけなのですが」 「もう腐れ縁ってレベルじゃない!」 ついやってしまった。だって仕方ないじゃない。それ腐れ縁じゃなくて運命ってレベルなんだもの。 私が驚くのに構わず、虚木さんは紅茶を一口飲み、口を開いた。 「さて、つい世間話に花が咲いてしまいましたが、今からお仕事の話と致しましょう」 「はい…」 急に雰囲気を鋭く、冷たいものに変えた虚木さんに、私は恐縮して、萎縮する。 意識していないのに拳を固く握り締め、解こうと意識しても強張って動く気配がない。 「契約内容を確認します。職務内容は私の助手、及び雑務。給料は毎月末にお渡します。そう多くなくて申し訳ないのですが、一応、ある程度生活に余裕の持てるだけの金額をお出しします。よろしいですか?」 「はい、大丈夫です」 「そうですか。では、契約と参りましょう。弥生」 虚木さんは弥生さんを呼ぶと、契約書を持ってくるように言った。ものの数十秒で弥生さんが持ってきた書類を確認し、私に不利益がないかを確認したら一緒に渡されたペンを使って署名する。 「はい、契約成立です。早速明日からお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 私は椅子から立ち上がり、頭を下げる。 固く握り締められた拳は、いつの間にか解けていた。 こうして、私の新たな就職先は案外すんなりと決まった。あれだけ頭を悩ませたのがアホらしいくらいに、あっさりと。 しかし、私は知らなかったのだ。この探偵がどのような人物なのか。 この男がなんと呼ばれているのか、私は知らなかったのだ。 虚木透理。職業、探偵。 口先と虚偽で謎を解く。真実を語らず人を騙る如何様だらけのその男、人呼んで、如何様探偵――― 『如何様探偵』、虚木透理。
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