順序なき順番

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私が虚木透理探偵事務所に就職して二週間。 その間、依頼は全くなく。毎日退屈に過ごしていた。 「今日も誰も来ませんね、虚木さん」 「事件がないのはいいことだと思いますよ、藤堂さん」 机に突っ伏しながら呟く私に、虚木さんはペーパーバックの文庫本を読みながら言葉を返した。 「透理様、藤堂様、お茶が入りました」 気付けば、側にはティーポットとソーサーに乗ったティーカップを持った弥生さんが立っていた。 「あ、ありがとうございます、弥生さん」 「弥生ちゃん、ボクにもお茶頂戴ー」 事務所の奥から真も飛び出し、みんなで弥生さんの淹れた紅茶の香りを楽しみながら、私は一人思考に耽る。 この職場に来てから、来る日も来る日も、弥生さんの煎れてくれるおいしい紅茶を飲みつつ、おいしいお菓子に舌鼓を打ち、無駄話に興じるだけの日々。 本当にこれでいいのか?そもそも本当にお給料は出るのか? 一人カップの中の赤い液体に視線を落とす私が、視線を感じ顔を上げると、真が悪戯な瞳で眺めていた。 真は、クスリと口元だけで笑うと、その表情を隠すように紅茶を啜った。 多く含みすぎたのか、カップを傾けすぎたのか、真の口の端から紅茶がこぼれ落ちる。 それは、まるで、口元から血がこぼれ落ちるようだった。 「透理、そろそろ来そうだよ」 カップを置いた真が呟く。 「そうか。弥生、来客の支度を」 「畏まりました」 それを聞いた私以外の二人は行動を開始した。 弥生さんはテーブルの上を片付け、虚木さんは、身嗜みを整え、きりっとした、真面目な雰囲気になっていた。一方私は……。 「え?何?私何すればいいの?そもそも来客って何?」 混乱していた。人が来ないのが当然のような探偵事務所で、その上前々からの約束かのように来ることがわかっているなんて、私にはイレギュラーな事態過ぎた。 私が慌てふためいている間に、虚木さんは来客者を応対するソファーに腰掛け、弥生さんは奥に引っ込んで行った。お茶請けを用意するのだろう。 あたふたしている私を後目に、真は口元に薄く笑みを浮かべ、再び紅茶を啜るのだった。
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