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『ごめん』
この一言は、子供だった俺にとってどんな言葉より残酷に聞こえた。
12月24日。クリスマスイブ。
この日は遠くで仕事してる父さんと母さんが帰ってきて一緒にご飯とケーキを食べる約束をしてた。
なかなか会えない両親。
いつも朝早くから仕事に行き、夜遅くになって帰ってくる。
普通の会話すら、電話ぐらいでしかできない。
『クリスマスは一緒に食べよう』
そう言ってくれたのに…。
「え?父さん、一緒に食べようって…」
『ごめんな…。どうしても外せない仕事なんだ。わかってくれ』
「嫌だよっ!父さんも母さんも一緒に食べるって言ったのに!」
『ごめん。じゃ、またな』
プッ、ツーツー…
それっきり、何度かけ直しても父さんも母さんも出てくれなかった。
頑張って飾り着けをした部屋。
テーブルには、毎日忙しい母さんから、唯一教えてもらった料理のカレーライス。
そのテーブルの真ん中にはケーキと火が灯ってない三本の蝋燭。
全部、無駄になった。
綺麗に飾ろうと思ったけど上手くいかなくて…、でも父さん達と一緒に居られるから、もっと楽しくしようと頑張って飾ったクリスマスツリー。
何度も指を切って、絆創膏だらけになった。だけど、いつも怒ったような顔をしてる二人に、笑顔になって欲しくて一生懸命作ったカレー。
母さんに褒めて欲しくて部屋を掃除した。埃(ホコリ)一つないようにピカピカにした。
全部、無意味になった。
俺は泣いた。
泣いて、暴れて、怒って、また泣いた。
手に掴める物はおもいっきり壁や床に投げつけたり、子供の力ながら力加減などせず力一杯クリスマスツリー蹴ったりした。
ふと気づくと、全部ぐちゃぐちゃになっていた。
綺麗にした部屋、飾り着けをしたクリスマスツリー、テーブルに置いたケーキ、そして二人のために作ったカレー。
全部、ぐちゃぐちゃ。
本当に全部が無駄で無意味になってしまった。
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