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俺の住む、築四十年の軽量鉄筋アパート。すでに外壁の塗装ははげ落ちていて、建築物としての役割に疑問を覚える頃だった。その屋根の上、満月をせおうようにして、金髪へきがんの少女--リン・エンディは立っていた。
「対象目視確認。※※爆砕*Ω」
リンの柔らかな口調で、しかし巻き起こる現象は、熱情にうなされる激しいものだった。
敷地内にある駐車場のいっかくから、せいだいな火柱があがり、周囲の温度を一気に上昇させる。
狙うは人形に宿りしものたちだ。俺の造ったフィギュアに、魂が入りこんだのだが、これが人々の危惧する地獄世界の住人を招き入れたらしい。
亡者となったなれの果てに、俺のフィギュアへ入るとは悲しい展開だ。
そして、遅ればせながらに歩みよる一体の人影は、すでに炎にまとわりつかれ、はくじゃくとした命を燃やしていた。
しかし、残る数はいくつか--。
リンが確認していただけでも五人、いや正しくはあと五体はいるか。
フィギュアという体型からしても、そいつらはあまりにも素早かったが、リンの適切な呪文が全てを焼きこがしていく。およそですら暗闇で視認できないはずだが、正確むじひに駐車場内にいる影を次々と焼きつくす。早くも四体もの墨ができあがった。
「ふう。力は弱いくせに数が多くて嫌になってくるわ……」
リンがパニエのスカートをはたいている時だった。背後で一体の影がうごめく。そいつの姿は月の光りに照らされてあらわにされた。
わずか身長三十センチでありながら、体は銀光を反射する西洋甲冑を身につけて、手にハサミの片刃のようなものが握られている。
そして、リンはまだその存在に気づいていなかった。
西洋甲冑はそろりとした忍び足を止めて、一気に跳躍した。狙いをリンのうなじに定めて、鋭利な刃物を突き刺そうと。
「リン、どいて!」
俺はそう叫んだと同時にリンを突き飛ばした。
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