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――11月17日。
早朝から翔は鼻歌混じりで洗面所の鏡に向き合っている。
【歯も磨いた。髪型もバッチリ。服装もOK。よし完璧だ!】
今日は美菜の誕生日。そのために翔は朝から気合いを入れて準備をしていたのだ。
全ての心配事が概ね片付いた翔は浮かれに浮かれていた。
「さて――出掛ける前にチェックしておくか」
そう呟いて携帯を操作し始める翔。
携帯の画面には見慣れた倉庫内の映像が映し出されている。
集会で使用していたあの倉庫だ。
そこには手足がロープで縛られ、目と口にはガムテープが何重にも巻かれている人間の姿が2人。
――桐谷と七崎だ。
「そろそろ殺すか?これ以上待っても逃げられるリスクが上がるだけだしな」
翔は彼らを拘束した後、すぐに殺そうとはしなかった。散々悩んだ結果、手は下さずに放置することに決めたのだ。
しかし放置と言っても、愛澤を使って定期的に水だけは与え続けている。
人間は何も口にしなければ通常1週間以内に死ぬ。しかし水分だけでも摂取すればもう少し長く生きられる。
ではなぜ水を与えて彼らを生きながらえさせているのか。
その理由は、ある2つのことを確認する為だった。
桐谷達を精神的に追い詰めて他に仲間が居るのか、そして警察と本当に繋がっているのか、この2つを吐かせようとしているのだ。
【――もう奴らを拘束してから11日も経ってるからな。精神的にはとうに限界が来ているはずだ。なのに奴らは沈黙を貫いている】
【普通そんなこと出来るか?いつ殺されるかわからない状況で、しかも水しか飲めないんだぞ……。桐谷はともかく七崎まで何も話さないのは明らかにおかしい】
【――てか今日は考えるのはよそう。せっかくの誕生日デートだしな……って時間やばい!】
時計を見ると、家を出るつもりだった時間を大幅に過ぎていることに気付く。
そして翔は慌ただしく自宅を後にした。
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