愛澤の葛藤

6/27
前へ
/652ページ
次へ
《聴こえますか?私は神です》 驚きの余り、持っていた携帯電話を落としてしまいそうになりました。 紛れもなく神の声。 その優しく包み込むような喋り方も神そのもの。 しかし私は落とさなかった。 聴こえてきたのが本物の“神の意志”であれば、私は間違いなく携帯電話を落としていたでしょう。 「馬鹿にするのもいい加減にしてください!」 温厚だと自負する私ですが、腹が立ちすぎて思わず声を荒らげてしまいました。 「あ、やっぱりバレちゃった?まぁ怒らずに聴けよ。今のはボイスチェンジャーで“神の意志”を再現した訳だが、それでも一瞬錯覚しただろ?」 彼が言うように錯覚はしましたが、それはあくまで一瞬だけです。ちゃんと聴けば彼の“神の意志もどき”が本物とは程遠い、全くの別物だとわかります。 確かに声や口調は完璧に再現していました。しかしそんなんじゃ私は騙されません。 大きく違うのはその聴こえ方。 彼の“神の意志もどき”は通話口から耳に届くだけ。でも本物の“神の意志”は脳に直接響くのです。 「確かに錯覚はしましたが、それが何だって言うんです?偽物は偽物でしょう!」
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8008人が本棚に入れています
本棚に追加