愛澤の葛藤

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佐伯さんの言葉を信じた訳じゃありません。私が信じているのは神だけです。 ――でも 万が一、いえ、億が一彼が言っていることが正しかったら。 大きな真っ白な紙に一滴の墨汁が垂れたように、頭の奥底に滲むほんの僅かなシミ。 それが私の心を徐々に侵食していくような……。 「――これでルナからのお知らせは終わりでーす」 ――おや。 どうやら連絡事項が終わったみたいですね。 もう考えるのは止しましょう。神を信じるのみです。 「それでは皆さん。“神の意志”に耳を傾けましょう」 私がそう言うと会員達は揃って目を閉じ始めました。私もそれに続いて目をつむります。 《皆さん、聴こえますか?》 これです、これ。 やはり本物の“神の意志”はひと味違いますね。脳に直接響くこの声がとてもトリックの類だとは思えません。 やっぱり貴方の考えは大間違いですよ、佐伯さん。 でもあんまり人のことは言えませんね。ほんの少しとは言え神を疑ってしまった私もまだまだ修業不足です。 こんな過ちはもう二度と犯しません。これからは更に神を崇拝していきますので、どうかご容赦を―― 《――さて。皆さんにはこれから使命を与えます》 え?使命ですか? 集会で神が使命をお与えになることは極めて珍しいこと。 何だか言い知れぬ不安感が私を襲いました。
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