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《ジョーカーを引いたらまずいなぁ。どれにしよう》
「なんだ!?」
思念を聞いた従業員は突然の出来事に驚き、声を上げる。目を見開き口は半開きの状態で翔の顔を見ている。
「ん、どうしたんだよ?」
従業員の声を聞いた熊野が不思議そうな表情で尋ねる。
「い、いえ……。今神宮さんの声が聞こえたような気がして」
「え……?俺は一言も喋ってませんよ?」
熊野は首を縦に振る。
「ああ、俺も聞いてない。お前の空耳じゃないのか?」
《この人、何言ってんだ?》
「うぇ!?なんだ?また……」
「おい!いい加減にしろ!変な事言ってゲームを中断するんじゃねぇ!!」
「あ、はい。すみません……」
《ほんと、この人どうしたんだろう?まぁいいか。さてどれにしようかな》
聞こえてくる思念に疑問を感じながらも熊野の苛立ちを察した従業員はそれ以上は何も言わなかった。
【よし、騒がなくなったな。計算通りに事が進んでる】
《うーん、迷うな……。1番右にしようかな?》
《それとも右から2番目にするかな?》
《やっぱり真ん中にするか》
《いやいや、1番左にしよう!》
《待てよ……左から2番目も良さそうだな》
翔はそれぞれの思念に対する従業員の反応を注意深く観察した。
仮にこれを普通に声を出して言った場合であれば悟られまいとして、必死に表情を隠そうとするだろう。だがこれは思念によるもの。相手はこの思念をわざと送ってるとは思いもしない。それにより翔の思念に踊らされ、無意識に表情が反応してしまう。
【真ん中だと思念を送った時、微妙に口元が緩んだ。その次に1番左だと思念を送った時はわずかに眉間にしわが入った。なるほど、真ん中がジョーカーか】
翔は真ん中以外のカードを引いた。翔の考え通り、ジョーカーは真ん中にあったのだ。従業員はジョーカーの位置を特定されているとは夢にも思っていない。それゆえ次の手番でもカードをシャッフルする事も無く、ジョーカーの位置は変わらず、翔はそれ以外のカードを引いて1回目のババ抜きに勝つ事ができた。
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