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普段の講義に出席しないで遊びほうけていた自分に、いまさらながら腹が立った。
こんなことになるなら、もう少し出席するか、せめて他の要領のいいやつらみたいに代返でも頼めばよかったのだ。
なんだか、なにもかもいやになってきた、そう思った時だった。手元に置いてあった携帯が、教場内の沈黙をやぶるように突然鳴りだした。泡を食った僕は、相手が誰かも確認しないまま取り落としそうになったそれを慌てて耳にあてる。
「もしもし」
背中に教授のきつい視線を感じながら、僕は背中を丸めてこそこそと廊下へ移動した。
「よお秋良。講義はどう?」
人を小ばかにするような、あっけらかんとした口調。思った通り、電話は順からだった。
「最悪だよ」
窓際に寄りかかりながら、僕は力無く言った。教場よりはマシかと思ったが、期待外れだった。開けっ放しになった大きな窓から風がよそよそと入ってくるものの、熱風ばかりでちっとも涼しくない。
「最悪?講義が?。ひょっとして俺の電話じゃないよな」
「両方」
「なんだよそれ。傷つくなあ」
たいして傷ついてもいない口調で、やつは言った。海から電話をかけてきているのだろう。順の気配に重なって、雑音みたいな騒がしさがかすかに聞こえてくる。こっちでは地獄の暑さも、向こうではきっとこの炎天下さえ心地よく感じるんだろうな。
そう思ったとたん、なんだか無性に腹が立った。自分のだらし無さが招いた結果が今回の補習だということを分かっていたから、余計にそう感じたのかもしれない。気が付いた時には、なおも何か話そうとしている順を無視して、僕は電話を切ってしまっていた。
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