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☆
「お兄ちゃんいる……?」
「あぁいるよ」
沙祐美に返事をしながらオレは空を見上げていた。あいにく、星は見えなかったが月が明るく輝いている。まぁ満月ではないのだが、ロマンチックと言えばロマンチックだ。
「それにしても、沙祐美」
「………ん?」
「珍しいな。沙祐美がトイレについてきてなんて…………嫌な夢でも見たのか?」
今思えばあの場にいた朱音に頼めば良かったものの…………いや、あの状態じゃ無理な話か。
「うーーん」
沙祐美はひとしきり唸って、うん。と一人でに頷いた(これはオレの予想だが)。
「怖い夢を見たの……」
「怖い夢?」
確かに怖い夢を見ると夜中、ただでさえ丑三つ時のこの時分トイレに行けなくなるのも分かる。
「でも、怖い夢なんてよくとは言わないけど時々見るだろ?そんなに怖い夢だったのか?」
「……………うん」
長い間を空けて沙祐美が返事をした。
沙祐美がこんなに怖がる程の夢。俄然興味が湧いてきた。
「どんな夢なんだ?」
トイレのドアの方に体を向けて聞く。
「……………ん」
しかし、沙祐美は何か迷ったような声を上げていた。なんだ?この夢の話を聞くと不幸になるとか思ってるのか?
「沙祐美?」
少しばかり急かすようにトイレのドアをノックした。それが引き金となったのか、沙祐美はもう一度先ほどのような声を出した。
「………ちょっとリアリティな夢だったから」
「リアリティ……?」
「うん。ありがちとは言えないんだけど近い将来あるかもしれない夢」
「興味深いな」
「………そう?」
「あぁ。……まぁなんだ。沙祐美がそこまで怖がる夢って言うのはちょっと好奇心がくすぐられるな」
「………いじわるだね。お兄ちゃんは」
ドア越しにクスッと笑う沙祐美の声がした。
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