10・願わくは

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なんと情けない後日譚をひとつ――翌日から三日間、ひどい風邪で臥せった。 薬を飲んで眠ったところ、だいぶ楽になった気はする。 ベッドの傍らには、目を閉じる前と同じ場所に藁科がいた。 「若いって……素晴らしいことだ。年の瀬に……オレ情けない……」 病んだところなど一切なく、どこもかしこもつやつやとした彼女に看病される。 「いいえ。精進の差です。なんで教えてくれなかったんですか? せっ、……そちらから電話してくれればもっと早く来たのに。健康体で新年迎えられませんよっ」 「……だってな、これはかなりの醜態だ」 「そこっ! 隠すとこじゃありませんっ。醜態のわりには笑ってるし」 それは幸せだからです。さっき『先生』と言いかけて誤魔化したところは可愛らしくて仕方がないし――あの夜、時間がかかるのは承知だが、そうなればいいと提案させてもらった。 完全覚醒に至らないのはまだ眠いからなのか、病からか。とりあえず、新しい冷却シートをでこに貼り直してもらうと、気持ちがいいことだけしか理解出来ない。 「薬とか、ありがとな。もう無かったんだ」 「じゃなくても、これからは真っ先に連絡してほしいですっ。……他にあてがあるんなら、それでも最悪しょうがないですけど、知らないのだけは勘弁です」 「……はい。そして、あてはないです」
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