1・ポニーテールの刃

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季節はずれかそうじゃないのか、セミの鳴き声響く十月初旬。茹で上がりそうな教科準備室。 「……オレがガキの頃より、どんだけ夏が長いんだよ」 半袖から伸びる汗ばんだ腕に半紙がくっつく。せっかくの作品が台無しだ。しがない準備室だけど、エアコンはそろそろ必要じゃないか? この昨今の温暖化。 炭の匂いが喉にきて……面倒くせえな。 色々と。 監視の目さえなきゃあ、それなりで終わらせておくものを。 紙パックのレモンティー片手に文庫本を読んでいた眼前の女生徒――『藁科ことは』は、目ざとくオレの失敗を見つけた。 「片山センセ。もう一枚、書いて下さいね」 「……分かってる。けど、これは藁科の担当じゃなかったのか?」 オレの問いかけに、頭をブンブン振りながら、藁科は頬を膨らませる。 「私の字がド下手なの、みんな知ってるのに。味があるだろって面白がって。っでも、高校最後の文化祭は完璧にしたいんですっ! お店の看板なんですからっ」 「おおっ、委員の鏡だ」 「だから、達筆な片山センセにも書いてもらって、明日クラスのみんなに突きつけてあげます。さあどうだ! って」 勢いがいいのは結構なことだ。ただ、部屋の熱気が増すのは勘弁――なんて、良く出来た生徒には言えねえけど。 大した教師じゃあないけれど、生徒のやる気を削ぐことはしたくない。
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