僕という存在

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母親は有名なジュエリーデザイナーだった。 誰からも頼られ、その仕事の完璧さから周りの評価が高い。 一方父親はサラリーマンで、ぱっとしない印象。 結婚当時は格差結婚だと騒がれるほどだったらしい。 それでも母は父を愛したし、父も気後れしながらも母を愛していた。 同時に二人の間に生まれた命も。 僕の周りには幸せが溢れていた。 そう、一か月前に父親が未成年達によるおやじ狩りに会い、死んでしまうまでは。 僕はそのことを学校で囁かれ、嫌がらせをされ、教師もそれを黙認していた。 そのどちらもが大きな理由になり、僕は一週間前に学校の屋上から飛び降りたらしい。 だからかもしれない。 きっと僕は思い出したくないんだ。 父の優しさも、友達の裏切りも。 復讐。 先程ヴィンはそう言った。 それもいいかもしれない。 父親を、僕の人生を少しでも狂わせた奴らに”自由に人生を謳歌”させるひつようはないよね。 「情報、集めてきてくれてありがとう」 僕はヴィンにお礼を言って頭を下げた。 学校は来週から行くことにしよう。 動けるのは今しかない。 僕はヴィンの緑の目をじっと見て言う。 「復讐したい」 僕を不幸にした全ての人間に罰を。 彼らに自由は似合わない。 そしてすべてが終わったら、僕は再び落ちるだろう。 暗い、暗い川に浮かぶ椿の上へと。
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