僕という存在

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昼間、僕は体内にヴィンを匿い、母と医者に外出許可を申し出た。 だが当然却下された。 自殺未遂の人間を外に出すわけがない。 僕も母に”必殺子犬の目”で訴えかけたが駄目だった。 「分かって頂戴。皆貴方のことが心配なのよ」 そう母に諭され、それ以上は反論できなかった。 ……ので、夜中に抜け出すことにした。 父を殺した犯人はヴィンが知っていた。 偶々近くで狩りをしていたらしい。 「あらあら、可哀想に。あんなに殴られちゃって」 鈴はそう言ってケラケラと笑っていたらしい。 彼女は今頃全てを忘れて仕事に復帰している。 それがヴィンの能力だという。 勿論、効かない人間も居るらしいが。 やはり彼女にも罰を与えるべきだろうか。 僕は爪の伸びた手をぎゅっと握りこんでいた。 ヴィンがそれに気付きそっと離させたのだけれど、そこには爪の痕がくっきりと写っていた。 「こないだ狙った奴、死んだらしいぜ」 歩くのに集中していたら、コンビニ近くの路地裏でそんな声が聞こえた。 辺りには街灯が無いが、相手の顔が確認できるだけの明かるさはあった。 「マジビックリなんだけど。人間って脆いね――」 その中には化粧の濃い女も混じっていた。 まるで社会からはじき出された集団だな、などとそう思った。 まあ僕は学校からはじき出されたのだが。
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