目覚めと魂

2/6
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
つい最近、というより今現在の話。 突然だが僕の名前は西条秋というらしい。 何故自分のことなのに“らしい”などと言うのかというと、僕は今初めて目覚めたばかりで、僕の人生は今始まったばかりだ、などと思っているからだ。 それ故に先程まで部屋に居た、肩まで伸ばした綺麗な茶髪の母親と名乗る人物に「秋!目が覚めたのね!」と抱きつかれた時は驚き、僅かの嫌悪感がした。 赤子というものは何も分からずに、ただ不快感と喜びと空腹を訴えて泣くものだと思っていた。 しかしどうやらそれは違うらしい。 そして僕の状況判断も違うらしい。 僕の体は赤子にしてはしっかりしているし、こんな事を考えていられるのも可笑しい。 現在の居場所は辺り一面真白な部屋のベッドの上。 おそらく病室だろう。 それ以外何も分からない。 全くの真白だ。 一体僕は何者なのだろう。 母親が出ていってからぼんやりと考えていると、突然目の前に影がかかった。 周りを囲む白い壁に同化するような白いナース服を着た黒髪の女性はそこに居た。 ドアを開ける音も足音も聞こえなかった。 それほどまでに僕は今のこの状況に動揺して、考え事に集中していたのだろうか。 悪いことではないが、いい事でもない。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!