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つい最近、というより今現在の話。
突然だが僕の名前は西条秋というらしい。
何故自分のことなのに“らしい”などと言うのかというと、僕は今初めて目覚めたばかりで、僕の人生は今始まったばかりだ、などと思っているからだ。
それ故に先程まで部屋に居た、肩まで伸ばした綺麗な茶髪の母親と名乗る人物に「秋!目が覚めたのね!」と抱きつかれた時は驚き、僅かの嫌悪感がした。
赤子というものは何も分からずに、ただ不快感と喜びと空腹を訴えて泣くものだと思っていた。
しかしどうやらそれは違うらしい。
そして僕の状況判断も違うらしい。
僕の体は赤子にしてはしっかりしているし、こんな事を考えていられるのも可笑しい。
現在の居場所は辺り一面真白な部屋のベッドの上。
おそらく病室だろう。
それ以外何も分からない。
全くの真白だ。
一体僕は何者なのだろう。
母親が出ていってからぼんやりと考えていると、突然目の前に影がかかった。
周りを囲む白い壁に同化するような白いナース服を着た黒髪の女性はそこに居た。
ドアを開ける音も足音も聞こえなかった。
それほどまでに僕は今のこの状況に動揺して、考え事に集中していたのだろうか。
悪いことではないが、いい事でもない。
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