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「私は看護士の鈴。覚えなくてもいいよ」
「はあ、素敵な自己紹介ですね」
「ふふっ、そうでしょう?ところで、ねえ君、今の自分の状況分かってる?」
鈴と名乗った看護士は楽しげに僕の顔を覗きこんでくる。
僕はというと、知らない他人との二人きりの空間の気まずさから彼女から距離をとろうとした。
だが、ベッドの背もたれに邪魔されてこれ以上下がれない。
彼女はなかなかの美人だ。
だから余計に気恥ずかしくなった。
そんな思いで逸らしていた目を彼女に戻すと、とても、とても、ぞっとした。
鈴と名乗った看護士はまるで獲物を見るような目で、此方をうっとりと見つめ、舌なめずりをしているのだ。
僕はその様に本能的な危機を感じ、なかなか上手く動かない身体を全力で転がし、ベッドから左、ドアとは反対側に転げ落ちた。
点滴が派手な音をたてて倒れる。
一瞬遅れて先程まで居たベッドに深々とギラギラと光る磨き貫かれたナイフが突き刺さった。
「イヤン!ソウルちゃんったら我儘でせっかちね――」
鈴が甘ったるい声で体をくねらせた。
気色が悪いが、同時に恐ろしい。
人を傷つけようとした人間が、まるでそれが当り前のように振る舞っている。
きっと“慣れている”のだ
それに“ソウル”ってなんだ。
分からないことばかりで頭が混乱する。
そして自然と身体が小刻みに震えだす。
僕は、死ぬのか?
この看護士に殺されるのか?
さっき目覚めたばかりなのに、もう?
信じられない思いで鈴を見ていると、彼女と目があってにっこり微笑まれた。
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