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「マスター、一時でも貴方を食らおうとして申し訳ありませんでした」
その声は先程鈴に対して発していた声よりはかなり優しく感じられた。
「私の名前はヴィンです。しがない一人のソールイーターです。化け物、と呼ぶものもいますね」
「あの」
「あなたは私が長年探し求めてきたマスターです。つまりご主人さまです。あなただけについていきます」
何故か、忠犬が頭をよぎった。
「何か御座いましたら何なりと!それがすんだら復讐に出かけましょう!」
何だか不吉な言葉が聞こえた気がした。
はっきり言ってこいつは怪しい。
怪しいというより、異常だ。
執事的な者を期待しないわけではないが、自分はついさっきまで殺されそうになっていたのだ。
そうだ、こいつはうっかりそのマスターとやらの僕を食らおうとしたんだ。
それ故信用できない。
出来る方がすごい。
しかしたとえどんな奴でも、自分を食らおうとした奴でも、記憶の真白な自分には味方が必要だ。
だから、その、非常に申し訳ないが利用させてもらおうじゃないか!
そう思うがいなや、僕は子犬のようにヴィンを見つめた。
そして彼にこう聞いたのだ。
「僕は、誰?」
その瞬間病室の空調がぶっ壊れたような息苦しさと、ヴィンの笑顔が凍りついたのが分かった。
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