黄巾の乱

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「では、私の戯言をお聞き願います」 癖のある髪の毛をくるりと指で遊ぶ。夏侯惇は苛立ったように筍イクを睨むがそれをあえて無視する。 「私たち武将は大地、民草は稲でございます。地に根を張り、天より降り注ぐ雨を吸い、民草は潤います。」 「…、」 「大地は稲にしっかりと根を張れる土を、いわば安定に暮らせる土地を、栄養はいわば商業、娯楽だったり、物質が溢れたり、我々は民の基盤を築きます。」 「ああ、ならば雨はなんだ」 「雨は帝、朝廷です。民草の心の寄りどころになり、恵みを満遍なく大地に降り注ぎます。ちなみに恵みというのは威光です。」 ぴ、っと人差し指を空に立たせ得意げに話す筍イク、夏侯惇はふむ、と声を上げる。 「しかし、雨が降らねば大地は枯れます、稲も枯れます。かといって降りすぎても大地は水を吸わず、稲は病気に罹ります。今の状態は後者です。病気は黄巾、余る威光は不満を、その不満を糧に、賊は蔓延ります。」 「…前者はなんだ?」 「ふむ、前者はすなわち朝廷が崩れたとき、干上がれば略奪が起こります。帝が居なくなれば新たな帝を立てようと我先にと争いが起こり、大陸全部を巻き込みましょうぞ」 質問に対し 今度はうなだれるように答えた筍イク。ぐたりと 猫背を起こし、夏侯惇を見る。彼は凛と筍イクを見ていた。 「…黄巾は立つべくして立ったのです。」 「馬鹿者、ならばその病を除くのも俺達の仕事だ。余った水を吸い尽くし、病も取り込み浄化する。雨が降るなら太陽が出ればいい。」 「太陽…、しかし帝を凌ぐ者など…」 なんと物わかりのいい、夏侯惇に対し思う。戦ばかりの人だと思っていた筍イクは自分の考えを上書きしていく夏侯惇に関心をもつ。しかしまだ甘いとも思っていた。帝を凌ぐ太陽はいない。居るはずはないのだ、と。 「いるじゃないか、曹孟徳という太陽がな、あいつは全てを掴むさ、全てを」 筍イクはそのまっすぐな目に身震いし、得体の知れぬ物を感じた。
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