小夜-或いは過ぎ去りし思い出-

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  それを最初に聞いたのはずっと昔。私がまだ小学校に上がって間もないくらいの昔。 だけど、初めて聞いた時、とてもドキドキしたのは今も覚えてる。 ――『ネバーランド』は本当に存在するの―― 祖母は優しく微笑みながら語ってくれた。 最初にその話を聞いて以来、私は祖母の家に行く度に、ネバーランドの話をしてくれ、と催促していた。 ネバーランドの事を語る時の祖母の優しい微笑みが大好きだった。 だからずっと聞いていた。実在していると思うか、そう問い掛けられたら迷う事なく「実在している」と答える。他でもない、祖母がそう言うのだ。ならば、それは本当の事なのだ。祖母は一度として間違った事を言った事はなかったから。だから実在している。実在しなきゃおかしい。 今思うと、私の祖母に対する信頼は少し盲目的だったかもしれない。 だが、私にとって祖母が全てだった。 そして、彼女もそれをよく知っていた。そんな彼女が嘘なんて言う訳がない。 だけど、私以外の誰も、祖母の話なんか信じていなかった。 ピーターパンの映画や本でも読んで、それを実在しているかの様に語っているだけだ。ただ構って欲しいだけ。 私以外の家族は、みんなそんな反応。だから祖母はだんだん私以外にネバーランドの話はしなくなった。 ――優子、これはお祖父様には内緒だよ―― そう言って私の頭を撫でてくれた祖母の瞳は、少し寂しそうだった。 ――ネバーランドに、私の初恋の人が居たの。 無邪気で、優しくて……―― 祖母はそこで言葉を止めた。 きっと、遠い遠い初恋を思い出しているのだろう。その顔は本当に楽しそうで――本当に綺麗だった。 夢を、視ているのだろうか。初恋の人と一緒にいる、夢を。 ――お祖母様…?―― それが、祖母と交わした最後の会話。 その会話を忘れた事はない。例え、何年経とうとも忘れないだろう。 ……誤解しない様に言っておくが、私は頭お花畑な小娘じゃない。というか、祖母からこの話を聞かなきゃ、私だってネバーランドが実在する、なんて信じようとはしなかった。 私がネバーランドの存在を信じた理由はただ一つ。祖母がそう言ったから。だから私は信じた。 そして、それは高校生になった今も変わらない。 (永遠の少年がいる場所、か) (でも…永遠、ってどんな感じなんだろう)  
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