遭遇-或いは、運命-

5/8
前へ
/15ページ
次へ
  「優子、沢城優子」 優しい子。そんな子になる様に。そう願いをこめて祖母がつけてくれた名前。 でも、ごめんなさいお祖母様。私、あんまり優しい子には育ってません。 「優子、な。 俺はピーターパン」 私を横抱きにしたまま、ピーターパンと名乗った少年は笑った。 あ、やっぱりピーターパンだったんだ。 そりゃそうだよね。夜中いきなりやって来て空飛ぶなんてピーターパンしか有り得ない。そして、ピーターパンもネバーランドも実在していた。 よし、そうと分かれば、あの親戚一同を集めて、お祖母様の墓の前で土下座で謝罪してもらおう。長年お祖母様を冷遇しただけじゃなく、嘘つき呼ばわりし、頭がおかしいとか好き勝手な事ばっかほざきやがって。 それでもお祖母様は優しい人だから、全て笑って許すだろう。が、私はそうはいかない。 お祖母様は何一つ間違えてなかった。あんなに冷遇されてたのに、一つも文句を言わなかった。いつだって優しく微笑んでくれた。そんな人をずっと苦しめやがって。 ……あ、何かムカついてきた。 「ピーターパン、ちょっとあの家に寄って」 あの家、と親戚の家を指差す。 この時間なら、まだ飲み会やってるだろう。乗り込んで行って、お祖母様が嘘つきじゃないって証明して、お祖母様のお墓の前で謝罪してもらって…とりあえず溜まりに溜まった昔年の恨みを延々と聞いてもらおう。それで少しはスッキリする…といいな。 「俺は便利屋じゃねぇ」 が、ピーターパンから返ってきたのはそんな返事。 「ちょっと!長年の積もりに積もった不満がようやく解消出来そうなのに!」 「悪いがこっちも緊急なんだよ」 …じろりと睨まれた。 でも所詮はちょっと可愛い少年。怖くも何ともない。 「ちょっとでいいの!ほら、寄ってよ!」 「あんまり喚くと犯すぞ」 「…は?」 思わず固まってしまう。 彼、ピーターパンだよ?少年だよ?そんな発言しちゃ駄目でしょ? 「ま、お前美人だしなぁ…。 ティンク見付けたら俺といい事しないか?」 何だこの卑猥な空気。 永遠の少年、が醸し出していい空気じゃないぞ。 「返事がないのは合意とみなすぞ?」 そう言って、ピーターパンは顔を近付けてきた。 「…何しようとしてるのよ、お馬鹿っ!」 ピーターパンと私の間に、金色の何かが滑り込んできた。 …この子、妖精さん?  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加