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「優子、沢城優子」
優しい子。そんな子になる様に。そう願いをこめて祖母がつけてくれた名前。
でも、ごめんなさいお祖母様。私、あんまり優しい子には育ってません。
「優子、な。
俺はピーターパン」
私を横抱きにしたまま、ピーターパンと名乗った少年は笑った。
あ、やっぱりピーターパンだったんだ。
そりゃそうだよね。夜中いきなりやって来て空飛ぶなんてピーターパンしか有り得ない。そして、ピーターパンもネバーランドも実在していた。
よし、そうと分かれば、あの親戚一同を集めて、お祖母様の墓の前で土下座で謝罪してもらおう。長年お祖母様を冷遇しただけじゃなく、嘘つき呼ばわりし、頭がおかしいとか好き勝手な事ばっかほざきやがって。
それでもお祖母様は優しい人だから、全て笑って許すだろう。が、私はそうはいかない。
お祖母様は何一つ間違えてなかった。あんなに冷遇されてたのに、一つも文句を言わなかった。いつだって優しく微笑んでくれた。そんな人をずっと苦しめやがって。
……あ、何かムカついてきた。
「ピーターパン、ちょっとあの家に寄って」
あの家、と親戚の家を指差す。
この時間なら、まだ飲み会やってるだろう。乗り込んで行って、お祖母様が嘘つきじゃないって証明して、お祖母様のお墓の前で謝罪してもらって…とりあえず溜まりに溜まった昔年の恨みを延々と聞いてもらおう。それで少しはスッキリする…といいな。
「俺は便利屋じゃねぇ」
が、ピーターパンから返ってきたのはそんな返事。
「ちょっと!長年の積もりに積もった不満がようやく解消出来そうなのに!」
「悪いがこっちも緊急なんだよ」
…じろりと睨まれた。
でも所詮はちょっと可愛い少年。怖くも何ともない。
「ちょっとでいいの!ほら、寄ってよ!」
「あんまり喚くと犯すぞ」
「…は?」
思わず固まってしまう。
彼、ピーターパンだよ?少年だよ?そんな発言しちゃ駄目でしょ?
「ま、お前美人だしなぁ…。
ティンク見付けたら俺といい事しないか?」
何だこの卑猥な空気。
永遠の少年、が醸し出していい空気じゃないぞ。
「返事がないのは合意とみなすぞ?」
そう言って、ピーターパンは顔を近付けてきた。
「…何しようとしてるのよ、お馬鹿っ!」
ピーターパンと私の間に、金色の何かが滑り込んできた。
…この子、妖精さん?
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