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彼女の僕を帰そうとする理由が、毎回微妙に違う。
本質は〝僕に帰って欲しいから〟だろうか。
玄関に立つと、彼女は「夜、電話するね」と言った。
「あ、しまった!」
「どうしたの?」
僕は両手を見せて、ややオーバーな仕草を見せた。
「カバン、忘れた!」
「ああ、いいよ、あたし取ってくる」
彼女がリビングのドアへ消えた瞬間、僕は靴を再び脱いだ。
玄関とリビングの間には、2つの空間がある。
1つ目の空間は風呂場。
折りたたみ式のドアを開けると、石鹸の匂いがした。
カラフルなシャンプー、リンス、ボディーソープが並ぶ、何の変哲もない美紀の風呂場だった。
風呂桶の腹に、吸盤式の受け皿が取りつけられていた。
そこには1本のカミソリが置かれていた。
僕はそのカミソリを拾い上げ、目を凝らした。
赤茶色の……錆び?
元カノ……EX-Girlfriendはすべてを再現する。
妙だ。僕の使っているシェイバーは特殊な合金で、錆びないと書かれていた。
女の子用なら、なおさらデリケート……錆びの起きない素材で、できているんじゃないのか?
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