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彼女が「そう……」と返すなか、僕はテレビを観るフリをして部屋を見回していた。
写真と手紙が貼られたコルクボード。
呼吸が苦しくなるほど、懐かしい景色。
間違いなく、彼女の部屋だった。
「座らないのか? 一緒に観よう」
「けど、洗濯物があるから……」
「これを観たらすぐに帰るから、な?」
美紀はしぶしぶと、僕の隣に座った。
目線はテレビに向けられているが、どこかヨソヨソしい。明らかに、落ち着きがない。
何かを隠している。
友達の母校は1点リードの九回、当時注目されていた球児が1死満塁のピンチを招くと、緊急救援した別の選手が2死満塁から代打に走者一掃の逆転三塁打を浴びた。
実は、野球にはまったく興味はない。それっぽいことを頭で反すうしただけだ。
結果、友達の母校はさらなる暴投で1点を失い、3-6の痛い敗戦を記した。
「最後に打たれた彼、2年後にスゴイ選手に化けるよ」
「へえ。どうして分かるの?」
去年の話だから、なんて言えやしない。
「……予感だよ」
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