1、消えた壇上のスポットライト

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リビングへ向かうと、発泡酒を呑みながらテレビを見るお父さんと、キッチンには食器を洗うお母さんの姿。 今日も平和な粕ニ家です。 「お母さん、さっきのなーに」 「さっきの、ってー?」 「ニノって呼んだ。今朝まで、ののかだったのに」 「あぁ、ミウちゃんがいつもそう呼んでるから」 「なら父さんも、ニノって呼んじゃうか?」 お父さんの言葉に苦笑いでNOと言えば、タオルを頭に乗せながら私はお風呂場へと向かう。 「けほ…」 浴槽から立ち上る湯気にむせながら天井を見つめていると、水滴がオデコに落ちてきた。 ピチョン 「交通事故って痛いよねぇ…」 死ぬ、って苦しいのかな。 苦しかったかな。 「……」 なんとなく頭まで潜ってみる。 ブク… ブクブク…ブク ブクブクブクブク 「っぷっくぁ!ハ、ハ…ハー」 びっ、くりした…。 息が出来ないのは怖い。 死ぬということは、息が出来ないんじゃなくて…しない。 初めて身近で起きた不幸に、この頃そんなことばかり考えています。 ピ…チョン
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