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声は届く距離であった。
なのに、斎藤は止まることなく、平然とどこかへ向かおうとする。
「ちょっ…ちょっと、待ってってば!」
駆け寄って、斎藤の着物の袖を掴む。
そこでようやく斎藤の動きが止まった。
しかし、振り返ることはしない。
「なんかさ…私のこと、避けてない?
もし何か気に障ることしちゃってたなら…」
「そうではない」
背中を向けたまま、しかし、はっきりと言った。
「だが…俺に関わらないでほしい」
「は…?
え、なんで…?」
「………」
斎藤はそれに答えることはなく、美咲が戸惑って手の力が抜けている隙を見て、再びどこかへ歩き始めた。
「………」
そんな…。
そんな悲しいこと言われたら、私…私。
無理矢理にでも理由を聞きたくなっちゃう。
美咲は、一度火がついたら止まらない、面倒臭いタイプであった。
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