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白いYシャツのボタンを閉める。
黒のベストに黒のスラックス、黒の蝶ネクタイをし、肩にかかっていた髪を後ろで束ねる。
仕上げに黒ブチの伊達メガネをかけて、腰にエプロンをする。
朝の清掃を済ませ、午前10時30分、カフェレストラン・Canvas.はオープン。
早速店のドアのベルが軽やかな音を鳴らす。
「いらっしゃいませー!」
マスターと共に声を発すると馴染みの客が顔を出した。
彼はマスターと同じ趣味を持つ絵画の同好会のひとりで、定年を向かえてからはしょっちゅう開店前からマスターと話し込んでいる常連客だ。
今朝は面接があったからこの時間に来たのだろう。
「おはようさん!」
「おはようございます、今日も同じやつですか?
あ、でもこの時間だからツナの方かな?」
「わかってるねぇー!十夜くん、さすがだよ!」
そう笑って、彼はカウンター席に腰掛けた。
「マスター、コロンビアコーヒーとツナトーストサンドセット、入りましたー!」
俺が注文を書いた伝票をカウンター越しにキッチンに出そうとすると、マスターは変に笑っていた。
「…アレがベテランと常連客ってやつだ、慣れてくればああなるのさ」
「は……はぁ。」
隣には面接を受けた少年がいた。
俺は彼が見ていることをすっかり忘れて反射的にいつものやりとりをしていた。
アイコンタクトのレベルで解ってしまう常連客とのやりとりは、初めて仕事を見る彼にはいきなりのハイレベルだったのだ。
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