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「今地上に存在する人という生命全てが、生きるという事を奪われている」
黒い髪をポニーテールに纏め、そのテールは腰よりも少しばかり長く、艶のある色合い。
目の前にある山のような黒い何かが蠢く度に吹く風がその髪を揺らす。
黒いロングコートが、その女の小さな身体を満遍なく包んでいて、左目に添えられた同色の眼帯をやけに浮き彫りにする。
対であったはずの残された紅い瞳が見据える先に得体の知れない不気味な容姿。いや、塊と表現すべきその生命体は歪に曲がり、無惨に捻れ、触手のように生える幾つもの錆色の腕が複雑に絡まり合う。
生よりもずっと死を連想させるその塊が僅かに動く度震える天井。それだけでその巨大さが伺えた。
無数に存在する爬虫類のような目が、一点に女を指す。
「私にだってわかる。こんなモノは偽りでしかないのだと」
誰もいない巨大な地下空間にポツリと存在している女は、ふと足元を見る。
その足元にはどこから迷い込んだのかわからない小型の獣。
犬や猫に近い容姿のそれが愛らしく首を傾げた矢先、塊から伸びてきた腕に絡め取られ、口なのかもわからない塊の一部へと押し込まれた。
悲鳴も無く、ただ骨の砕ける音が響く。
「それでも、偽りとは時に真実に勝る。私達は――餌でしかないのだから」
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