奪われる寿命

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此処はレリックの駆動パーツ等を取り扱う専門店。アルクスはそこの主人であり、女性は馴染みの客だ。 本来ならアルクスの行う業務はパーツの取付、調整に限る。レリックの修理等は通常、レリック専門の医療機関である医院出なければ出来ない。知識的な面と、技術的な面で。 「全く、どうしてレリックコアはこんな馬鹿者に上位レリックを授けたんでぃ」 オーバーレリックは皆が扱える物ではなく、レリックコアと呼ばれる全てのレリックを司る存在により与えられたレリックが上位級等の制御コアを有してなければならない。つまり、オーバーレリックによる負荷に耐えうるコアか否かが重要になる。 人は生まれながらレリックコアによりレリックを与えられるが、選ぶ自由はなく、レリックは機能が停止した時点で使用者の生命も止まってしまう為に、交換する事も出来ない。 「……毎度毎度言わせるんじゃねぇ。レリックが壊れちまったらおめぇさんは死んじまうんだ。おめぇさんに限った話じゃねぇがよぅ……」 バラしたパーツに欠損はないか、古びたランプに翳しては確かめていくアルクスはぼそりと呟く。 女性に取って既に馴染みのある光景と、馴染みのある言葉。 少しだけ考え込むように顔をベッドにうずめた女性は、そっと自らの手のひらを見つめた。 「……アルクス殿は、第二民衆区域のウェバーを覚えているか?」 突然の質問に作業の手を止めて首を傾げたアルクス。 「あ、あぁ。おめぇさんとしょっちゅうやり合ってた小僧だろう? それがどうかしたのか?」 「先月の末、昇華したそうだ」 女性の言葉にポツポツと無言が降りかかる。そうなる事がわかっていたのか、女性はふぅっと息を吐き出し瞳を閉じた。 昇華するという事は、レリックコアによって制御コアが停止された事を意味する。 何を基準としているのかも定かではなく、予告もなく、突然に死が決定する。現在の人類に取って昇華する事がつまりの寿命であり、逆らえぬ運命なのだ。 「……そうか。まだ若けぇのに」 アルクスは再び作業を再開しながら、柄にもなく小声で発した。 「結局、死ぬんだ。何をしなくとも、寿命を延ばすはずのレリックに、寿命を縮められて。だったら私は好きに生きる。いつ散るかわからない、昨日まで元気だった人間が今日には墓場にいるような世の中なのだから」
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