prologue

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 はて誰でしょう?  私はごった返す駅前の広場で老体をポツンと立たせながら首を傾げた。  マウスとウサギはまだ来ない。もちろんそれは本名ではなく掲示板でのHNだ。  まあすっぽかされても仕方あるまい。自殺会などと言う言葉を聞くだけで躊躇うもの。それを10代20代の少年少女に誘っても来るわけがない。  いい加減に諦めて帰ろうとした時、チリーンという季節外れな風鈴の音が耳に入った。  振り返れば1人の大男がリュックを背負ってこちらを見ている。そのリュックにはオフ会参加者の目印の鈴……ではなく風鈴。 「き、君が……マウス君かい?」  嗄れ声で恐る恐る聞けば、彼は図体とは不釣り合いなほど優しく微笑んだ。 「ヤギ……さん?」  ヤギ。私のHNである。HNの由来は安直な物で、長く蓄えた髭がとうとう真っ白になってしまったからだ。  だが彼の納得したような顔を見るとヤギというのはなかなか相応しいようだ。  私は目尻にシワを寄せてクシャッと微笑み返して鈴を見せた。 「鈴って言ったじゃないかマウス君」  互いにソレを交互に見てしばしの間を開けて私達は、ははははと笑い出した。
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