prologue

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「ウサギ。来ませんねぇ」  野太い声でマウスが呟いた。  途中で気が変わっても無理ないさ。そう返すと彼はおっとりとした口調で「祝福すべきですね」と言う。  そうである。自殺など真に追い詰められた人間がする事だ。まだまだ未来のある若人にそんな事を強要する事もあるまいて。  そうこうしてしばらくベンチに座り、秋の程良い風に吹かれていると再びチリーンという甲高い音が響いた。  ああ、やはり来てしまったのか。  そう思いながらもマウスに視線をやると、彼も苦笑いを浮かべてこちらを見ていた。 「来ちゃいましたね」 「来ちゃいましたな」  オフ会なのだから普通は喜ぶべきなのだろうが私達はなんとも言えない気持ちだった。  そういえばウサギって女の子でしたっけ?  言われてみてハッとした。性別はおろか年齢さえ聞いていなかったのだ。  開けてみてからのお楽しみ。そう、また苦笑いで返すと彼もまた苦笑いで返した。 「せーので振り向きますよ」  まるで修学旅行の学生気分。  いったいどんな方なのだろうという好奇心が久方振りに動悸以外で心臓を高鳴らせた。
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