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「置いてきましょう。マウス君」
「え!?」
耳打ちする私の言葉を聞いて彼は小さく声を漏らすと手拍子一つ遅れて「そ、そうですね」と呟いた。しかし。
「マウス! ヤギ!」
彼女の快活な心地良い声が私達の背中を更にジトリと汗で濡らした。
私達の思いとは裏腹に彼女は嬉しそうに我々の顔を交互に指差して元気に言う。
「おっきい方がマウスでちっちゃい方がヤギでしょ! よかったぁ! 私だけ置いてけぼりだったらどうしようかと思ったよぉ!」
今まさにそうしようとしていたのである。
どうする私。
これまでにない窮地に立たされた気分で私は口笛を吹き吹き「何のことでしょう?」としらを切った。それに続いて「ぼ、僕らは用事があるので」とマウス。
くるりと踵を返して数歩歩き、私達はまるで合わせたように走り出した。
あんな幼い女の子が自殺なんかしてはいけない! 私のような老いぼれならばともかく、彼女には未来があるのだ!
私達はもう無我夢中で走りつづけた。それはもう機関車の如く。今風に言うならば「パネェ」くらいに。
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