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「はぁ、はっ、こ、ここまで来れば大丈夫でしょう」
今世紀稀に見る猛ダッシュは私の老体にはなかなか酷な物だった。
呼吸は乱れ、心臓が悪い高鳴りをし、肩で息をする。最後の最後でこのような仕打ちがあるのだろうか。ああ、神はなんと無慈悲なのだろう。
しかしこの公園まで走ってくれば上手く捲けたに違いない。などと高を括っていると彼が上擦った声で私を呼んだ。
「や、ヤギ」
荒い吐息のままマウスが私の肩を叩き、あれ、あれ。と何かを指差す。
なんだと汗を袖で拭いながら視線を巡らせると、すぐさま新しい冷や汗がブワッと額から吹き出した。
「まぁうぅすぅ……やぁあぎぃぃ……」
鎮怒の形相でじりじりと歩み寄るウサギの姿。なんと。まさか追い付いてきたというのか!?
まだまだ呼吸は整わないが私は走らざるを得ない状況に追い込まれた。
子供の体力を甘く見ていた。
マウス君も死に損ないのジジイに合わせて走ってくれていたのだ。彼女から逃げるにはそれこそ死ぬ覚悟がなければ。
そうして何とか走り出したのは良いものの、私の身体は僅かに前進してそのまま前のめりに倒れ込んだ。
「独りはやだよぉお」
腰にしがみつき泣きじゃくる彼女。なんと愛くるしく哀くるしい事か。
「……」
私はマウスの顔を見て溜め息をつくとまた苦笑いを浮かべて見せた。
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