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虚無
そんな激しい妄想をベッドの上で抱かせた後、彼は途方もない空しさにおそわれた。
何もない。ただ止まっているだけ。
彼は知っているのだ。気付いているのだ。自分のせいでこういう顛末が下っていることを。日頃の行いに天罰を下すのは自分なのだと。自分の努力が足りないという事実をもみ消してまで人に恨みを持つ筋がどこにあろうか。全くの筋違いな思いこみである。
現実に引き戻った彼は、それまでの殺意も憎しみも自愛も消された心境になった。人は時として憎しみや悲しみをバネにその力を世の中に認められる方向に変換する事が出来る。彼は自らの負の感情を、そのベッドの上で完結させ次に進む活力に変換しようとしていた。
そこには人間の真っ直ぐな気持ちが映し出されていた。人は悲しみを以て喜びを知り、苦しみを以て楽しさに出会える。
そして彼は悟ったのだ。人間の真理を。
それからというもの彼は一切潰れなくなった。気持ちのどこかにその真理を携え、苦しい時や悲しい時も一歩引いた自分というのを手に入れたのだ。
それは客観性というものだった。
彼は今立派に毎日を生きている。
終わり
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