付いて来る女

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俺はある場所に向かった その途中、一人の女が付いてきていることに気づいた いくら路地を曲がっても、信号に捕まっても、女は一定の距離で後ろに付いて来る 不気味に思った でも、もうどうでもいいことだ なぜなら、今から俺が行く場所は 俺の死に場所だからだ 少しずつ、駅が見えてくる 駅に近づくに連れて、俺と女の距離も近づいていることに気づいた でも、そんなこと どうでもいい 駅の中に入り、地下鉄のホームに立った 黄色い線など気にしない、俺は死ぬんだ 列車の音が微かに聞こえた 来たか、ついにこのときが 全てを捨て去るときが 借金からも 自分からも 家族からも 逃げる、このときが だんだんと列車の音は大きくなる それに加えて聞こえた声 それは家族の そして、息子の笑い声だった そうだ、あんな笑顔をまた見たい 確かに、借金に追われ、苦しい生活だった だけど、2人は俺を見捨てなかった なのに俺は今、2人を見捨てて自分だけ楽になろうとしている ホームには、一組の家族がいた 妻と夫と息子、三人で笑い合っている そうだ、どんな荒んだ人生でもいい 家族がいる限り、俺は死ねない そのときには、もう死ぬ気なんて失せていた 列車の音が間近に迫った そして、俺はフッと笑い、 振り返った 俺の目の前に女がいた 女は いや 家族は 俺の体をそっと押した 完
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