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結論から言うと勝負は引き分けとなった。
速さと間合いが有利なランに対し不利を補うように極力接近して巧みな剣技を振うコウヤ。
両方が一般的な目から見れば達人レベル。
腕試しを超えて本当に殺し合いをしているように見えて止められたのである。
コウヤが怪我をしたら仕事が終わらないという考えがサヤにあったのも確かだが。
もっとも、続けていれば自分の負けだったとコウヤは述べ、実質的にはランの勝ちとなり、客将としてランは迎えられたのだった。
「で、どうしたんですか?お嬢」
だが、優秀な武将が入った一方、ランと反りが合わないのかサヤはここのところ不機嫌になっていた。
「別に、ただちょっとランがな…。なんか、合わないというか」
「あ~でもしょうがないんじゃないですか?客将だし、お嬢が主に足る人物か見定めてるんですよ」
「いい迷惑だ」
疲れた表情でそう返すサヤに、やっぱ苦労しやすい人だなぁとコウヤは苦笑した。
「まぁ、それに関しては俺から言っておきますよ」
「そうか、悪いな」
愚痴を言って少しすっきりした様子のサヤに安心したコウヤは、様子見も兼ねてランの元へと向かった。
「ラン殿、少し良いかな」
「これは、ディック殿。どうしました?手合わせですかな?」
「いやいや、手合わせをしに来た訳でわない」
「むぅ、それは残念だ」
本当に残念そうなランに思わず頭をなでそうになるが、思い止まりコウヤは本題を切り出す。
「用とはお嬢の事だ」
「サヤ=コーミッヒ殿の?」
「ほら、よくお嬢を見定めてるだろう?それで、疲れていてな」
「あぁ、それは失礼した。必要なことだった故な。もっとも、もう見定めるつもりもないが」
「ふむ、差し支えなければ聞かせてくれ」
「無能ではないが、王の器ではない。地方の領主が限界だろう」
はっきりと断言するランに思わずコウヤは苦笑いした。
「これは、またはっきりと言うな」
「ついでに言えば私はコウヤ殿は大帝国に仕えるべき武将だと思うがな」
武人としても軍師としても確かな力を持つコウヤに、ランは帝国の領主の部下に収まるべきではないと言外に述べていた。
「過大評価だな、それに俺は望んでお嬢の元にいるのでな」
「そうか」
「ところで、見定めたということはここを去るのか?」
「いや、まだ暫くはいるつもりだ。コウヤ殿と共に戦をしてないからな」
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