序 章

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「はー、寒っ」 少年は吐き出した白い息を手のひらに吹きかける。 陽はつい先程に暮れ、辺りにはまだ橙色が残っている。 「何でこんな寒い日に忘れ物をしたかなあ俺は……」 少年は一度帰って来た道を引き返していた。 学校に忘れ物――財布を取りに行くためだ。 帰り道、バスに乗ろうと定期券を探した際に、財布がないと気づいたのだ。 「さすがにこの寒い中歩いて帰ったら、1時間もかかるし寒すぎるし、仕方ないよな…」 マフラーを巻いているし、手袋だってしている。それにコートも着ているが、それでも寒い。 何せ彼はかなりの寒がりだからである。 冬は昔からずっと嫌いだった。 しばらく歩いていくと、野球部らしき掛け声が聞こえてきた。 「……やーっと着いた…」 ようやく学校の校門の前に辿り着いた時には、残っている生徒は部活動をやっている生徒だけのようだった。 「さっさと取って帰るか」 少年は小走りで昇降口に行き、靴を履き替え、教室へと向かった。 .
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